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最高裁判所第三小法廷 昭和59年(あ)133号 決定

本店所在地

横浜市中区伊勢佐木町二丁目八五番地

有限会社萬善物産

右代表者代表取締役

韓在喆

本店所在地

横浜市中区伊勢佐木町二丁目八五番地

有限会社三洋観光開発

右代表者代表取締役

韓在喆

本店所在地

新潟市上所三丁目三番八号

(登記簿上

新潟市春日町一一番九号)

有限会社三愛観光開発

右代表者代表取締役

富田憲治

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、昭和五八年一二月二六日東京高等裁判所が言い渡した判決に対し、各被告人から上告の申立があったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人源光信の各被告人に関する上告趣意は、いずれも量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 横井大三 裁判官 伊藤正己 裁判官 木戸口久治 裁判官 安岡滿彦)

○昭和五九年(あ)第一三三号

○ 上告趣意書

被告人 有限会社 萬善物産

外二名

右の者に対する法人税法違反被告事件につき、上告趣意書を差出します。

昭和五九年三月一日

弁護人 源光信

最高裁判所 第三小法廷 御中

第一点 原判決は刑の量定が不当であって、これを廃棄しなければ著しく正義に反する、と思料する。

一、第一審判決は検察官の、有限会社萬善物産につき罰金一、五〇〇万円、有限会社三洋観光開発及び有限会社三愛観光開発につき各罰金一、〇〇〇万円、被告人韓在喆につき懲役一年六月の各求刑に対し、各被告法人につき求刑どおりの、被告人韓につき懲役一年、四年間執行猶予の各判決を宣告した。

原判決は被告人らの量刑不当の控訴に対し、昭和五八年一二月二六日「本件各控訴を棄却する」旨宣告した。

二、その理由とするところは、脱税率は萬善物産が約八三・四%、三洋観光開発が約四六・三%、三愛観光開発が一〇〇%とそれぞれ高いこと、所得秘匿の手段が長期計画的であること、昭和五六年九月原審で同種犯罪で処罰を受けていること、脱税額の本税すら未納となっているので、被告人韓が代表取締役に就任し前経営者から、利益をあげ滞納税金等を含む全債務を極力解消すべき旨の条件が付されたため、その履行に追われていたことの事情がある等所論指摘の諸事情があるにしても、第一審の量刑は重過ぎて不当であるとは言えない、と言うものである。しかしながら、次にのべるように、第一審の量刑を肯定した原判決の刑の量定は重すぎるというべきである。

三、全額につき、被告一社の正規の法人税額は、約三、三〇〇万円也であって、三社合計しても約一億円であって、これは近時における法人税法違反としては中型程度であって、社会の注目をひくほどのものではないのである。

四、逋脱率も確かに原判決の言うとおりであるが、各逋脱税額に対する罰金の率は、萬善物産につき約四七・九%、三洋観光開発が約五一・三%、三愛観光開発が約三六・八%ではあるが、被告三社がこれから納付すべき各種の税、重加算税などを考慮するとき、単純に逋脱税額に対する罰金の率をみるのみでは不当であるし、かりにその率をみるのであれば、三〇%程度が社会通念上相当の額であると思料される。

五、前述のとおり、第一審は求刑どおりの罰金刑を科し、原審もこれを是認したのであり、原審の検察官の答弁書中にも「求刑どおりの判決が言渡されることは、その例少なくない」旨の記述があるが、しかし、我々の実務感覚からすれば、求刑どおりの宣告刑というのは、例外的に誰がみても、全く情状酌量の余地がないケースに限定されるものであって、情状酌量の余地が十分ある本件においては、まことに理解できないものと言わなければならない。

六、捕脱の方法は極めて単純である。萬善物産及び三洋観光開発については、これらの会社のトルコ店の売上を一部除外して過小申告したと言うものであり、三愛観光開発については、先の国税局の査察で萬善物産等の関連会社とみられ、帳簿類の押収を受けたこともあって、申告をしなかったというものである。したがって、極めて手のこんだ悪質事案であるとも言えないのである。

七、被告三洋観光開発の譲受けの代金に相当する銀行借入返済、修正後の法人税、罰金、萬善物産の賃料の支払い等のため、韓が一生懸命企業努力したにも拘わらず、いわゆる遣り繰がきつかったため、最も安易な方法である逋脱ということにはしったものであるが、現在は同人も反省し、会社の正しい経営に最善の努力をしているものである。企業努力の成果があれば、逋脱ということはなかったのである。被告三者は、修正申告をなし、前回の分から、国税当局の手順どおり、順次支払中である。

八、そして、現在では被告三社の経理も改善され、リストも日計表などそのまま事務所へ送らせていて、現金は現地の銀行に入金させ、その日その日の入金状況が明確にされているので、今後の脱税ということは経理上もあり得ないのである。

以上

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